竹内理鈴 えー。今あなたがこれを見ているということは、私はこの世にいないのかも知れません。 そんくらい厳重に日記を管理してるつもりなので。 ・・・これでもし、まだ私が生きてたら恥ずかしすぎて本当に死ねる(笑) ってなわけで、これは私の遺書です。だけど、そんな堅苦しいものじゃなくて、ただの手紙と思ってください。 ・・・なんか未来に向けて手紙を書くって変な感じだね。タイムカプセルって感じかな? 内容が遺書だから少し後ろ向きっぽいけどね。 ではまず、お母さんへ。大好きです。すごく、とっても、そりゃもう盛大に大好きです。 料理が上手で、優しくて、ちょっとドジなところもご愛敬ですね。すごく好きです。 だけど、お母さんは少し弱すぎます。ちょっとしたことでなかれると困るんです。でも知ってます。 お母さんの弱さは優しさです。凄く優しいから、少しのことで泣いてくれるんだよね。その優しさが大好きです。 でも泣かれると少し困るのであんまり泣かないでほしいかな。・・・なんかチグハグだね。 そんで、お父さんへ。もう若くないんだからお酒を控えた方がいいと思うんです。 いや、いきなりそれかよって思うかもしれないけど、ほんと、お願いだから体を大事にして下さい。 んと、お父さんの良いところ・・・ ・・・が、出てこない。私に厳しいしさ、声ででかいし、太ってるし。 でもね、すごく好きなんだ。となりにいてくれると凄く安心するの。尊敬してるとかは無いけど、すごく好きです。 お母さんもきっとそうだと思います。だから、自分を責めるのはやめてください。 確かに伯父さんも、私と同じ病気で死んだから、遺伝ってことはあるんだろうけど。 あなたのおかげで私は生まれました。もしも私に、他の夫婦の下に健康な体で生まれる権利があったとしても、 私はあなたたちを選びました。だから、この体も、病気も、涙も、全部私が墓場まで持っていきます。 だから、自分を責めないでください。私を産んだことを誇りに思ってください。お願いします。 剣太郎君のお母さんへ、剣太郎君が亡くなって凄く悲しかったはずなのに、私の所に笑顔で会いに来てくれてありがとうございました。 今回のことがなければ私は、この遺書を書いていなかったと思います。 剣太郎は生意気で、年上の私に敬語をつかわない、いわゆる『クソガキ』でした。 だけど、格好良かったです。あいつは一度もお互いの病気のことを話そうとしませんでした。 子供だから理解してないとか、そんなんじゃなかったと思います。 自分が死んでしまうにしても、自分が笑っていないと周りの人が悲しむから、だから笑っていたんだと思います。 私の病気を尋ねなかったのも、私を気遣ってくれたからだと思います。 それと、遺品の一つである将棋盤を譲ってくれてありがとうございます。 せっかくなので、これは出来れば私と一緒に燃やしてください。一つの駒も残さずにお願いします。 向こうで剣太郎と一緒に遊びたいんです。あいつはまだまだ下手クソだけど、一緒に遊ぶと楽しいんです。 ご心配なさらずに、手加減はちゃんとしますから♪ 剣太郎は一人にしません。だから、あなたは笑って生きてください。上を向いて歩いていてください。 私たちからあなたの笑顔が見えるように。天を仰いで生きてください。 そして、私にかかわった全ての人へ。まとめて書くなんて失礼だけど、ごめんなさい。 今も泣いてしまってこれ以上書くのが無理なんです。 竹内理鈴は間違いなく幸せでした。ベッドの上にいる時間が長かったので、可哀そうだと思う人もいたかもしれませんが。 幸せでした。確かに、最初に自分の余命が数年だと宣告されたとき、とても悲しかった。 どうして自分なんだろうと、恨み事を言いました。だけど、ずっとベッドの中にいる内に、少しずつ幸せを見つけていきました。 毎朝元気にあいさつしてくれる看護婦さん。 頑固だけどたまにおせんべいを分けてくれるおばあちゃんや、元気に走り回ってる子供とか。 そういう人たちと触れ合っていると、幸せを見つけられました。それは、あなたです。あなたたちのおかげです。 わざわざこんなことを書くと嘘っぽいけど、本当です。本当にありがとうございました。 最後に、まだ生きているであろうこの手紙を読んでいるあなたへ。 どうか、後悔のない人生を送ってください。 夢を叶えろとは言いません。 涙を見せるなとは言いません。 きっと間違うこともあると思います。 それでも、間違った道を選んでしまったとしても。 幸せをつかむ方法は、必ず残されているはずです。 私の後悔は、病に倒れたことではなく自分の幸せに気付くのが遅かった事です。 だから、どうか絶望したり怒ったり悲しんだり、そういうときには自分の内側じゃなくて、周りにいる人たちに目を向けてください。 多分、幸せな人たちを見ていれば、100分の1くらいの幸せをもらえると思います。 世界を閉じないでください。 一畳半のこのベッドの上でも、私は抱えきれないだけの幸せを見つけることが出来ました。 私は死んでしまったけれど、この人生はハッピーエンドでした。だから、スマイル。